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JB ファン待望の If Beale Street Could Talk 映画化、12月14日全米公開

黒人であることが一体、どういうことなのか……。生涯をかけて問いかけたハーレム出身の黒人作家、ジェームス・ボールドウィンの問題小説、「もし、ビール・ストリートが語ることができたら……。If Beale Street Could Talk」が映画化され、トロント国際映画祭で大絶賛されました。12月14日に全米で公開されます。監督は、「ムーンライト」で初のオスカーを受賞したバリー・ジェンキンス。奇をてらわず、繊細な映像で定評のある監督で、日本人固有の侘び、サビにも通じるものがあります。

20世紀半ばのアメリカ合衆国における、人種問題と性の問題を扱った代表的な黒人作家として知られるジェームズ・ボールドウィン。彼の小説の中でも家族の重要性を描いたのが、この映画、『If Beale Street Could Talk』です。

テーマは、黒人社会ではよくある、身に覚えのない強姦罪で投獄された若者と、彼を取り巻く恋人、家族たちの愛と葛藤の物語です。舞台はニューヨークのハーレム、まだ人種差別が根強く残っている1970年代の出来事です。

黒人の原点、Beale Street

大のジャズ/ブルース・ファンで知られるジェームス・ボールドウィン、タイトルにビール・ストリートを使ったのも、ブルースを一般に広めたことで知られるコンポーザー、M.C. ハンディの代表曲、「Beale Street Blues」にちなんだもの。ビール・ストリートはブルースの都、メンフィスにある繁華街の通りの名前で、このお話の舞台、ニューヨークにはこの地名はありません。ジェームス・ボールドウィン曰く、「アメリカに生まれた黒人はみな、ビール・ストリートに住んでいる。」つまり、同じ劣悪な環境に生きている、というのです。

ハーレムの愛の形 Fonny and Tish

主人公は、22歳の黒人アーティスト、フォニーことAlonzo Hunt、彼の幼馴染みでガール・フレンドの19歳のティッシュことClementine Rivers、ふたりを軸に物語が展開します。黒人街として知られるハーレム、そこに住むフォニーは貧しいながら、レストランのキッチンでパートの仕事をする傍ら、彫刻制作にいそしんでいます。「いつか、偉大なアーティストになる.」というアメリカン・ドリームを抱いて……..。

小学生の頃の初恋の相手、フォニーとティッシュは将来を誓い合います。もし、黒人でなければ純粋なラヴ・ストーリーだったはずの二人の愛……..。ティッシュの妊娠がわかった時には、すでにフォニーはレイプ容疑で獄中にいたのです。「もし、ビール・ストリートが語ることができたら、真実が明るみに出て、フォニーはすぐに釈放されるはずなのに……..。」黒人の厳しい現実…..…..。ティッシュを始め、二人の両親、きょうだいたちが弁護士の費用を出し合い、失踪したレイプ被害者の女性を探し、奔走します。「彼女が証言を取り下げればフォニーは無罪になる。」と信じて。

Go To Jail 刑務所という現実

フォニーの地元仲間、ダニエルもやはり、身に覚えのない罪に問われ、2年間の刑務所生活を送ります。フォニーとダニエルの会話から、アメリカの黒人たちのやるせない現状がクローズ・アップされます。刑務所内で暴行やレイプに遭い、すっかり人間性を失ってしまったダニエルにフォニーは語る言葉がありません。静寂だけが漂うばかり…….。

黒人の男にとって最も恐ろしいところは刑務所です。法律は黒人を守ってくれません。ダニエルの現実が、今度は自分に降りかかってきた…….、フォニーの果てしない闘いが始まります。

ゲイもストレートも同じ男、オレたちはみんなボールドウィンの落とし子

バリー・ジェンキンス監督が、若かりし頃から興味を持っていた作家がボールドウィンだったといいます。いつか映画化しよう、と取り組んできたのがこの「ビール・ストリートが語ることができたら……。」で、2013年「ムーンライト」と同時進行で脚本を執筆していたというだけに、彼にとっても念願の作品となります。出演は、新人で抜擢されたキキ・レインのほかステファン・ジェームス、ペドロ・パスカル、コルマン・ドミンゴ、レジーナ・キング、テヨナ・パリスなど。プロデュースは、「ムーンライト」で組んだブラッド・ピットの製作会社プランBのほかジェンキンス監督の製作会社パステルとアンナプルナ・ピクチャーズにより製作され、トロント国際映画祭でワールドプレミアされました。

ジェームス・ボールドウィン略歴

James Baldwin (August 2, 1924 – December 1, 1987) 享年63歳。

20世紀半ばの代表的な黒人作家。本人は、「黒人作家(二グロ・ライター)」と称されるのが嫌いで、「私は作家です。」と強調していました。黒人が正当に扱われていないアメリカを捨て、フランスやトルコなどに住んで執筆活動をしていました。

主な作品は、Go Tell It On The Mountain(1953年。少年牧師が主人公の自伝的小説), Giovanni’s Room(1956年。二人のホモセクシュアル、イタリア人のジォヴァンニとアメリカ人のディヴィドとの愛の葛藤を描いた問題作。), Another Country(1962年。黒人ジャズ・ミュージシャンが主人公で、彼の白人のガール・フレンド、彼を取り巻くバイセクシャルの友人など、当時タブー視されていた題材に焦点を当てた小説。)など。

「私は黒人で、しかもホモセクシュアル、さらに貧困の三重苦。もう、笑うしかないよね。」- James Baldwin

ブラック・ヒストリー・マンスに見ておきたいオスカーノミネート作品「I AM NOT YOUR NEGRO」A Black History Lesson for All

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Black History Month 2月はブラック・ヒストリー・マンスです。
「黒人の歴史、といってもどこから入っていいのかわからない」という人に是非見てほしいのが、先週金曜日から公開された映画、「I Am Not Your Negro’ 」です。
1950年代に作家としてデビューした、ジェームス・ボールドウィンのドキュメンタリー映画が ‘I Am Not Your Negro’

私生活でも交流のあった、メドガー・エヴァース、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師、そしてマルコムXの3人の代表的な公民権運動家たちをボールドウィンの視点でとらえたユニークな発想の内容です。

南部、ミシシッピー出身の公民権運動アクティヴィストのメドガー、非暴力主義の聖職者マーティン、急進的なムスリムのマルコム、いずれも背景やアプローチこそ違いましたが、ゴールは同じ、「人種差別撤廃」のために生涯をかけて闘った人たちでした。そして、3人とも30代で暗殺されています。ボールドウィンの生の声を通して、1960年代の黒人人種差別の実態や、彼らの葛藤が伝わってきます。

「アメリカの歴史は黒人の歴史、しかも決して美しい姿とは言えない。ボールドウィンが残した言葉は、まるでこの映画を集約しているかのようです。

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キング牧師の夢から50年!

Martin Luther King Jr. in 1963

Martin Luther King Jr. in 1963

50th Anniversary Of The March On Washington

キング牧師50周年記念マーチ

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March on Washington

March on Washington

月28日は、あのマーティン・ルーサー・キング Jr.牧師の有名な「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」スピーチの50周年記念日、ワシントンDCで大々的なマーチが行われ、オバマ大統領がスピーチしました。

President Obama 2013

President Obama 2013

「50前、キング牧師がこの場所で演説した’夢‘の一部は叶ったと思う。が、しかし、まだまだ黒人と白人との収入や失業率は著しく差があり、キング牧師の理想にはほど遠い……。課題はたくさんあるが、あの当時から比べるて大きく進歩したことには間違いはない。」とプレジデント・オバマが熱弁しました。

オバマ・スピーチを聞く

March on Washington 1963

March on Washington 1963

今では1963年のワシントン・マーチはキング牧師が率先して企画した運動のように報道されていますが、これは黒人公民権運動の一環、「平等の権利、生活向上」を掲げた集会で、けっしてキング牧師がスピーチするためだけのイベントではありませんでした。キング牧師のほか、スピーカーはロイ・ウィルキンス(NAACP会長)、フィリップ・ランドルフ(ニグロ労働組合団長)などが黒人社会の不平等をなくすために闘おうと訴えました。

Charlton Heston, James Baldwin & Marlon Brando in 1963

Charlton Heston, James Baldwin & Marlon Brando in 1963

有名人のハリー・ベラフォンテ、ジェームズ・ボールドウィン、白人俳優のマーロン・ブランド、チャールトン・ヘストンなどもサポートに駆けつけています。面白いことに、この集会には、キング牧師と犬猿の仲とされていたマルコムXも参加していました。その事情など興味ある方は自伝「マルコムx」を読んでみてください。

Martin & Malcolm

Martin & Malcolm

伊藤弥住子

Martin Luther King, Jr. Day キング牧師デー

Dr. King March

Dr. King March

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Martin Luther King, Jr. Day キング牧師デー

マーティン・ルーサー・キングJr.は英雄か?

アメリカ合衆国では、毎年1月の第3週月曜日はマーティン・ルーサー・キング牧師の誕生日を祝う祝日に定められています。州によってはヒューマン・ライツ・デーと呼ばれているところもあります。広島でもこの日はノーベル平和賞を授与されたキング牧師に敬意を表して祝日として祝う、という話も聞いたことがありますが本当でしょうか。日本の場合は一都市だけ祝日というのはあまり聞いたことがないのですが…….。

アメリカ公民権運動の指導者として人権の平等を唱え、政府の弾圧と闘ったキング牧師の貢献はよく知られています。ハーレムはもちろん、黒人コミュニティーでは学校や道路、公民館などにキング牧師にちなんだ名前がつけられ、彼を英雄として讃えています。

キング牧師は、今も学校の教科書に書かれているような、非暴力主義を貫いた平和主義運動の英雄なのでしょうか。

Paul Robeson at the Peace Arch, 1952

Paul Robeson at the Peace Arch, 1952

George Schuyler

George Schuyler

1964年にノーベル平和賞がキング牧師に授与されました。この決定に真っ向から異議を唱えた作家がいました。「ピッツバーグ・クーリエー」という印刷物を刊行していたジョージ・スカイラー(George Schuyler)です。「ドクター・キングが世界平和のためにしたことといえば、全米を渡り歩いて頭の弱い人たちにクリスチャンの教えを広めて伝染病のように感染させたことくらい。しかも、レクチャー演説という名目で不当な金額の報酬をふんだくっている。」と声明を発表しようとしたのですが、あまりに過激な内容だったのでオーナーからストップがかかりました。キング牧師批判が原因でスカイラーは文壇から姿を消し、彼の過去の作品も市場からほとんど抹殺されてしまいました。

Harriet Tubman - Conductor of the Underground Railroad

Harriet Tubman – Conductor of the Underground Railroad

90年代になってスカイラーの代表作、「Black No More (邦題:もう黒くない)」、「Black Empire(邦題:黒人帝国)」がリイシューされました。「Black No More」は黒人からみたアメリカを風刺した小説です。‘白人社会における黒人たちの問題は黒人がいなくなることにより解決できるはず……..、’おりしもドイツで新しい医学の開発を研究してハーレムに戻ってきた某ドクターの新発明により、化学療法によって黒人を白人にすることが可能になり、アメリカ中の黒人がこの治療を受け白人になってしまう、というサイエンス・フィクション。登場人物も一読してそれとわかる史実の著名人ばかりで、パロディー小説としても面白い作品に仕上がっています。ブラック・コミュニティーの偽善、欺瞞、矛盾と正面から取り組んだ作品を多く発表した著者がキング牧師の業績に異論を唱えたのはなぜなのか、とても気になるところです。

Stokely Carmichael - Black Power Movement

Stokely Carmichael – Black Power Movement

Civil Rights Day

スカイラー以外にもキング牧師に批判的な人たちもいるようですが、キング牧師が人種差別反対を叫び、公民権運動のリーダーとして大きな貢献をしたことは歴史的にも明らかです。ただ、キング牧師以外にもアメリカ社会での黒人の地位向上のために闘ってきた人たちがたくさんいることも忘れてはいけないと思います。ジェームズ・ボールドウィン(作家)、ストークリー・カーマイケル(公民権運動家)、アンジェラ・ディヴィス(ブラック・パンサー運動家)ロレイン・ハンズベリー(脚本家/作家)、ハリエット・タブマン(奴隷解放運動家)、ジェームズ・ブラウン(ミュージシャン)、ポール・ローブソン(歌手/俳優)などは若いヒップホップ世代の人たちにもよく知られています。キング・デーは、そうした同じ目的のために闘ってきた多くの活動家たちの功績をいまいちど振り返るよい機会ではないかと思います。

伊藤弥住子