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アメリカの人種問題を浮き彫りにしたコメディ映画、「グリーン・ブック」公開間近!

 

映画、「グリーン・ブック」が11月16日に公開されることになりました。ジム・クロウという法律で白人と黒人が隔離されていた1960年代のアメリカ南部が舞台です。黒人クラシック・ピアニスト、ドクター・ドン・シャーリーと、彼が南部ツアーのために雇った、クラブのバウンサー、イタリア系白人の用心棒兼運転手、トニー・リップとの珍道中が始まります。最初は、お互い人種の違いもあり、緊張感がみなぎりますが、一緒に旅をしてゆくうちに友情が芽生えるという、心温まる作品に仕上がっています。(日本公開は2019年3月予定。)

ドン・シャーリーのピアノ演奏

二人とも実在の人物で、脚本もトニーの息子が手掛けています。監督は、ジム・キャリーが俳優としてブレイクしたコメディ映画、Dumb & Dumberで知られるファレリー兄弟の片割れ、ピーター・ファレリーです。黒人なのに、ケンタッキー・フライド・チキンを食べたことのないハイソなピアニスト、ドンと、白人なのにリトル・リチャードやチャビー・チェッカーなど、黒人音楽に詳しい運転手のトニーとの対比がコミカルに描かれています。ところで、この映画のタイトル、「グリーン・ブック」とは何なのでしょう。

黒人のための旅行ガイド、グリーン・ブック


まだ、法律で人種差別されていた時代、黒人旅行者のためのガイド・ブック「The Negro Motorist Green Book」、通称‘グリーン・ブック’というのがありました。このガイド・ブックには、各地で、黒人でも泊まれるホテル、モーテル、食事ができるレストラン、コーヒー・ショップなどの情報が掲載されていました。また、民間の人が自分の家の部屋を貸すといった、現在のエアーB&Bもリストされていたといいます。当時(Civil Rights Acts, いわゆる人種差別撤廃法案が1964に成立する前)は、ほとんどのホテルやレストラン は黒人お断り、特に、差別の激しかった南部では、日が沈むまでに町を出ないと袋叩きに合うなど、黒人たちにとって死活問題でした。全米をツアーする黒人ミュージシャンたちも、このグリーン・ブックを「旅行のバイブル」として愛用していたといいます。

発行人はハーレム(NY)在住のビクター・ヒューゴ・グリーン氏で、、「黒人が安心して車で旅行できるガイド・ブックを作ろう。」という発想から、このグリーン・ブックが1936年に誕生しました。ハーレムの郵便局職員だったグリーン氏は、南部の郵便局で働く仲間から、黒人を受け入れてくれる宿泊施設や、食事ができるレストランなどの情報を集め、The Negro Motorist Green Bookを刊行しました。これが大当たり。やがて、グリーン氏は郵便局を辞め、このガイド・ブックの編集に専念、西135丁目にオフィスを構え、以来、毎年刊を重ね、1966年まで発行し続けました。

「グリーン・ブック」は、メール・オーダー(通販)のほか、エッソ・ガソリン・スタンドで購入できました。「こんなガイドが必要のない世の中にならないといけない。」というのがグリーン氏の口癖だったと言います。

アメリカの人種差別を扱った映画というと、かなりシリアスなストーリーになってしまいがちですが、この「グリーン・ブック」は視点を変え、コメディ仕立てになっています。雇用主の一流ピアニストが黒人、使用人の教養のない運転手が白人という、当時は珍しかった主従関係に、当人同志はもちろん、周りも戸惑います。クラシック/ジャズ・ピアニストとして、幼少の頃からその才能を認められ、博士号まで持つ有名ミュージシャンのドンですが、当時の南部では、ただの「黒人」として蔑まれ、ひどい扱いを受けます。無教養ですが白人というだけで優遇される運転手のトニー……。南部をドライブするのに頼りになるのは「グリーン・ブック」だけ……..。ともすれば「虐げられた黒人の悲劇」というヘビーな内容になってしまいがちですが、そこが監督、ピーター・ファレリーの手腕の見せ所。そこかしこにユーモアを散らし、史実を曲げずに公民権運動真っただ中の南部の実態を見せてくれます。

監督:    Peter Farrelly

出演:    Tony Lip – Viggo Mortensen

Don Shirley – Mahershala Ali

公開:     11/16/2018 (一部では11/21/2018)

2パック伝記映画 All Eyez On Me 賛否両論 Jada Pinkett-Smith Slams Tupac Shakur Biopic ‘All Eyez on Me’

ENGLISH – read this excellent Rolling Stone Magazine Article 

結論から言うと、期待していなかっただけに、わりと面白かったです。2パック役のディミートリウス・シップ.ジュニアが予想に反して、とても頑張ってくれて少しほっとしました。

Danai Gurira stars in ALL EYEZ ON ME
Photo: Quantrell Colbert

オープニングのショットはニューヨークのイースト・ハーレム。物語は、ブラック・パンサーのメンバーだった2パックの母親、身重のアフェニ・シャクールがニューヨークの刑務所から出所するところから始まります。

私たち日本人だけでなく、最近の黒人の人たちにとっても、1960年代後半に西海岸のオークランドで台頭してきた「ブラック・パンサー」のコンセプトやその影響を正しく理解している人は多くありません。1960年代のアメリカは、まだ人種差別が激しく、黒人たちは理由もなく警察から尋問を受けたり、殴られたり、金品を没収されたりしていました。

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All Eyez on Me Directed by Benny Boom opens on Friday, June 16

日本語

Tupac Shakur’s bio pic “All Eyez on Me” is the true and untold story of him (Demetrius Shipp Jr.), from his early days in New York to his status as one of the world’s most recognized and influential voices. Against all odds, Shakur’s raw talent, powerful lyrics and revolutionary mindset establish him as a cultural icon whose legacy continues to grow long after his death.

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全米ナンバーワン!!N.W.A.ドキュメンタリー映画 絶賛上映中!

Straight Outta ComptonN.W.A. Biopic “Straight Outta Compton”

Read in English

ヒップホップ・ファンなら是非見てほしい映画が「ストレート・アウタ・コンプトン」です。80年代後半、ウエスト・コーストのコンプトン在住の若者のラップ・グループ、NWAの誕生から大成功するまでを追ったドキュメンタリーです。8月14日に公開されて以来大反響、2週連続全米ナンバーワン!毎日記録を更新中。

Spoiler Alert まだ見ていない人はこの先読まないでください。

O'Shea Jackson Jr
ハイライトがいくつかあって、まずキャスティングが素晴らしい。N.W.A.のメンバーのうち、アイス・キューブを演じているのが実の息子、オシェイ・ジャクソン・ジュニアです。顔や表情が似ているだけでなく、しっかり演技ができているのが凄い。そして、イージーEを演じる役者(ジェイソン・ミッチェル)が、顔はまったく似ていないのにヴァイブが強烈で、最初は違和感があったのに、だんだん惹きこまれ、エイズで死ぬ場面はもうすっかりイージーE本人として感情移入してしまったほど。当初、イージーEの息子、リル・イージーEが父親の若い頃を演じることになっていたそうですが、どうも演技力不足だったらしく、降ろされてしまったそう。ドクター・ドレ役のコーリー・ホーキンスもDJオタクなドレを見事に演じて、マル。

ドレがプロデュースした「カルフォルニア・ラヴ」のレコーディング風景が見もの、2パックがスタジオでヴォーカルを録るシーンでは鳥肌がたちました。そっくりなんです。2パックのスタジオでの生前の映像をはめ込んだのでは、と思ったほどです。実は演じた俳優のマーク・ローズはすでにジョン・シングルトン監督の2パック・ドキュメンタリー映画の主役に抜擢されたのだそう。このシーンを見るだけでも価値がある…….?

冒頭のシーンでいきなり戦車がクラック・ハウスに突っ込み、家を破壊してしまいます。ドラッグ戦争のさなか、実際にロスアンジェルスの住宅地で起きていた取り締まり手段なのですが、あまりの残虐なやり方に警察に対しての嫌悪を覚えます。別な場面では、N.W.A.のメンバーたちがレコーディングの際、ブレイクをとって外でソーダを飲んだりしている時、パトロール中の警察に遭遇、理由もなしに全員地面に叩き付けられ取り調べられます。コンプトンのブラック・ティーンと警察とのいびつな関係が浮き彫りに……..。アイス・キューブが「ファ**・ザ・ポリス(警察なんか糞くらえ)」とラップしたくなるのもムリないよね、と思わせられます。

1988年にリリースされた、N.W.A.の “F**k Tha Police” はアメリカ社会に大きな衝撃を与えました。地元の警察LAPDから嫌がらせされたり、音楽が暴力的過ぎるとボイコットされたり……。メデイァからは「ギャングスター・ラップ」というレッテルを貼られ、銃を振りかざして暴力を糾弾されます。それに対して、メンバーたちは「オレたちの住む環境が暴力的なだけで、オレたちは自分たちの経験をただラップしているだけ。」と反駁します。事態はさらにエスカレートしてFBIから抗議の手紙がきます。白人マネージャーはオロオロするばかり……….。アメリカ政府が介入してきたら一大事だ、とメンバー達に自粛を勧めます。ゲトーのギャングあがりのイージーEはビビるどころか、不気味な笑いを浮かべ、「FBI………? ふふん、面白いじゃないか。いっちょ、これを公表して大々的に宣伝しよう。」と提案、思惑通り、N.W.A.の名前がアメリカだけでなく世界中に轟くことになります。折しも、ロドニー・キングが複数の警官に暴行されたビデオ・テープがニュースで世界中に流れ、ゲトーの黒人と警官たちとの関係は悪化の一途をたどり、とうとう暴動へ発展、50年前のワッツ暴動を彷彿とさせます。黒人たちへの偏見がなくなるどころか、現在でも警察による暴力事件が起こり続けていることを考えると、25年以上経った今でもN.W.A.のメッセージは古さを感じさせません。タイミングの良さも手伝って映画は大ヒット中。

NWA
「Straight Outta Compton」は社会批判だけでなく、ヒップホップの重要な要素、「パーティー」のシーンもふんだんに登場します。グルーピーの女性たちがただのセックスの道具にしか描かれていないのが気になりますが、当時(今でも?)ゲトーの女性たちは、「男は金」としてしか見ず、成功した男に群がるのですからお互い様なのかも知れません。

Straight Outta Compton - Cast監督はアイス・キューブの初期のPVを手掛けたF.ギャリ―・グレイで、キューブとはバカ受けしたコメディ映画「フライデー」でも一緒に仕事をした仲間です。カルフォルニア出身で、コンプトンの事情にも通じたベテラン監督なので撮影もスムーズにいったようです。物語はイージーE、アイス・キューブ、ドクター・ドレの3人に焦点を当てています。脇役としてシュグ・ナイト、スヌープ・ドッグなどが登場しますが、どの役者も存在感があって印象に残ります。ほんの2時間あまりで約10年に渡るグループの活動や亀裂、ソロになってからのそれぞれの成功を追うのは至難の業だと思います。ムダなものを削ぎ落とした感はぬぐえませんが、N.W.A.というグループの実態はよく描かれていると思います。

アイス・キューブとドレがN.W.A.の映画を制作していると聞きつけたシュグ・ナイト、黙っているはずがありません。「オレに断りもなしに………。」と怒り狂ったシュグ、チンピラ仲間を連れて撮影現場を襲撃、なんと死傷者まで出してしまいました。そのニュースは、映画にとって格好の宣伝材料になっただけで、シュグはまた刑務所に逆戻り………。

ライヴ映像はすべて出演者たちがパフォーマンスしているそうです。なかなか迫力があってコンサート映画としても楽しめます。私はイースト・コーストの現場でヒップホップを体験したのですが、この映画を通してN.W.A.のリアルなメッセージも十分堪能できました。ヒップホップの歴史を知るうえでも重要な作品だと思います。

伊藤 弥住子