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[Black History Month]Malcolm X – El_Hajj Malik El-Shabazz マルコムXを殺した真犯人

Malcolm X at NYC Rally in 1964

Malcolm X at NYC Rally in 1964

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黒人の歴史月間に寄せて
“マルコムXを殺した真犯人”

Malcolm X – El_Hajj Malik El-Shabazz
(1925年5月19日生まれ、1965年2月21日逝去)

アメリカのブラック・コミュニティーではマルコムXは英雄として多くの人たちから尊敬されています。

Malcolm X - By Any Means Necessary

Malcolm X – By Any Means Necessary

特に、ヒップホップ世代の若者たちからは、「薬物取引、窃盗などの犯罪で逮捕され服役……..ゲトーならどこにでもいるようなチンピラだった男がイスラムの教えに目覚め、黒人社会のために命を賭けて闘ったヒーロー」と讃えられています。

マルコムがライフル銃を構えて窓から外を窺っている有名な写真を KRSワンが真似たアルバム・カバー (By All Means Necessary) はよく知られていますが、他にも多くのラッパーがマルコムX語録を歌詞に取り入れています。

BDP - KRS One - By All Means Necessary

BDP – KRS One – By All Means Necessary

ボクシング界のチャンピオン、モハメド・アリやゴスペルからソウルに転向したサム・クックなどエンターティンメント業界のスターたちと親交があったこともマルコムXが現代でも若い人たちから支持されている大きな理由かも知れません。

え、マルコムXって誰?という方のために以下、簡単な年表を作ってみました。

マルコム X 年表

1925 5月 19日、ネブラスカ州のオマハに生まれる。
1931 小学校入学。父、アール・リトル、市電に轢かれ死亡。Ku Klux Klanによる犯行か…..。
1938 ミシガン州ランシングに移転、中学校に入学。
1939 母、ルイーズ・リトル、カラマズーの精神病院入院。マルコム施設を点々とする。
1941 腹違いの姉、エラをたよってボストンに移転

1943 ニューヨークのハーレムに引っ越し、「スモールズ・パラダイス」のウェイターとして働く。招集命令を拒絶。デトロイト・レッドを名乗る。窃盗、強盗をはたらきギャング/ピンプとしての堕落した生活を送る。
1946 窃盗/拳銃所持の罪で逮捕され8—10年の求刑を言い渡される。チャールスタウン刑務所に服役。読書に没頭するようになる。

1947 服役中、家族(兄たち)に啓蒙され、ネイション・オブ・イスラム教団に興味を持つ。指導者イライジャ・モハメドより手紙をうけとり入信を決意。
1952 6年の刑期を務め出所。教団の本部のあるシカゴにイライジャ・モハメドを訪ね、マルコムXの名を授かる。
1954 ニューヨークのハーレムにある教団のテンプル#7の責任者に命名される。

1958 ベティ・サンダース(のちのベティ・シャバーズ)と結婚。11月に長女、アタラー (Attallah)誕生。
1962 イライジャ・モハメドの教団モスリム少女姦通疑惑浮上。

1963 ワシントンDCのマーチに参加キング牧師の有名な「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」スピーチを聞く。ケネディ大統領暗殺事件について「自分がまいた種、内部の犯行。」発言が物議を醸し、教団より謹慎処分を受ける。
1964 アレックス・ヘイリー「マルコムX自叙伝」の執筆準備を始める。ネイション・オブ・イスラムを脱退。新しい組織、アフロ・アメリカン統一機構を設立。キング牧師と面談。メッカ巡礼の旅に出る。

1965 2月14日明け方自宅を爆破されたが、命は取りとめる。2月21日、オーデュボン・ボールルームでの集会でスピーチを始めた直後撃たれ死亡。
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Boy Malcolm

Boy Malcolm

黒人の歴史月間に寄せて〜”マルコムXを殺した真犯人”
父、アール・リトル惨殺

マルコムがまだ6歳の時、牧師で、マーカス・ガーヴィーのアフリカ回帰運動に触発され黒人の権利を主張した父親、アール・リトルが白人至上主義団体(ク・クラックス・クラン)に殺害されました。殴る蹴るの暴行をうけたあげく、路面電車の線路に置き去りにされ、電車に轢かれるという残虐な死でした。幼いマルコム少年はこの事件を機に黒人差別に対する憤りを意識するようになったようです。その反発か、マルコムは非行の道へ走ります。腹違いの姉を頼ってミシガンの田舎から大都会のボストンへ上京します。そこで盗みや薬物売買といった悪事を重ね、ニューヨークのハーレムとボストンでハスラー生活の後、とうとう逮捕され刑務所に送られます。そこからマルコムXの本当の人生が始まりました。

Malcolm Little a.k.a. Detroit Red

Malcolm Little a.k.a. Detroit Red

ネイション・オブ・イスラムとの出会い

服役中に、ネイション・オブ・イズラム(NOI)という新しいブラック・ムスレム教団の存在を知り入信、指導者のイライジャ・モハメドよりそのカリスマ性をかわれ、ハーレムのテンプル#7の責任者に任命されるまでになりました。

ネイション・オブ・イズラムはイスラム教を踏襲していると謳っていますが、実際は「元祖、神は黒人であり、白人は悪魔である。」という黒人至上主義を推進した団体だったようです。指導者、イライジャ・モハメドは、「白人は悪魔。自分たちは白人に搾取されず、黒人の統一、権利向上を目指す。」とブラック・コミュニティーでの布教活動を展開していきました。「諸悪の根源は白人にある。」という過激な教えは、白人社会で搾取されることに嫌気をさしていた多くの黒人たちの賛同を得て、ゲトー・コミュニティーの間で瞬く間に広まりました。

Elijah Muhammad and Malcolm X

Elijah Muhammad and Malcolm X

偽善者、イライジャ・モハメド

マルコムXは、イライジャ・モハメドの忠実な部下として12年間その人生を捧げてきましたが、ある時、イライジャが自分の回りに侍らせているティーンの女性メンバーとの間に子供をたくさん作っているという噂を聞きます。教団の掟では、不倫、姦淫は禁止されています。モスリムは酒、タバコ、薬物のみならず、いかなる賭け事、エンターティンメントも禁止されているのです。噂が事実なのか確かめるため、マルコムは教団の本部のあるシカゴを訪ね、実際にイライジャの妾だと言うシスターに会って話を聞きました。なんと、イライジャには妻との子供のほか、ネイション・オブ・イスラムに所属するティーンのシスター6人に生ませた子供が合計8人もいることが発覚したのです。聖なる神のメッセンジャーであるはずのは単なる好色じじぃだったのだろうか…….。12年間忠誠を尽くしてきた自分はいったい何だったのだろう……..。

Martin & Malcolm

Martin & Malcolm

時を同じくして、ジョンFケネディ大統領が暗殺されます。プレスに囲まれたマルコム、「大統領暗殺についてのコメントを。」と求められ、「起こるべくして起きた事件、内部の仕業なのは明白だ。」と答えます。翌日、そのコメントが新聞の一面を飾りました。それを知ったイライジャは、マルコムを90日間活動停止という謹慎処分にしました。イライジャのナンバー1の子分だったマルコムXの面目丸つぶれです。その時、やっとマルコムは「これは罠だ。」と気がついたのです。

もう後戻りはできません。マルコムは、イライジャと袂を分かつ決断をします。1964年3月、マルコムXは12年間信仰してきたイライジャ・モハメドのネイション・オブ.イスラムを脱退し、宗教を母体としない人権の平等を謳った組織、「アフロ・アメリカン統一機構」を立ち上げました。

Malcolm X Speaking

Malcolm X Speaking

誰がマルコムXを殺したのか……..?

マルコムXは自分が暗殺されることを予知していました。「自分は長くは生きられない。今、こうして生きているのだって奇跡なくらいだ。」と取材でもコメントしていました。マルコムX自身、彼の暗殺を企んでいたのは教団で、さらに手を下すよう命令されていたメンバー5人の名前をすでに知っていたと言います。1965年2月21日、166丁目にあるオーデュボン・ボールルームでスピーチを始めようとしたマルコムめがけ一斉に銃弾が浴びせられました。即死でした。

警察は、マルコムを破門処分した教団、ネイション・オブ・イスラムのメンバー3人を逮捕したと発表しました。死が近づいているのを知っていたマルコムXは、「自分はムスリムの手によって殺されるだろう。でも裏で糸を引いているのはアメリカ政府だ。」と確信していました。ジョンFケネディが処分されたように、自分も、そしてキング牧師もアメリカ政府によって抹殺されるだろうと予測していたのです。

マルコムX暗殺の3人の容疑者はみな刑務所送りになりました。(一説によると、FBI特別措置で週のうち5日間は自宅謹慎、2日間のみ刑務所で過ごすというV.I.P.待遇だったとか……。)良心の呵責に耐えかねた犯人の一人タルマッジ・ヘィヤーは獄中でのインタビューで真犯人を告白しました。それによると、当初逮捕されて20年以上もお務めを果たしたノーマン・バトラー、トーマス・ジョンソンは無実で、教団のメンバー、ウィルバー・ミッキンリー、リオン・ディヴィッド、ウィリアム・ブラッドリーが真犯人だという。

さらに詳しい真相を知りたい人は、ドキュメンタリー「By Whatever Means Necessary」を参照して下さい。

http://www.youtube.com/watch?v=TGzkFVNyvH0

(伊藤弥住子)