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全米ナンバーワン!!N.W.A.ドキュメンタリー映画 絶賛上映中!

Straight Outta ComptonN.W.A. Biopic “Straight Outta Compton”

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ヒップホップ・ファンなら是非見てほしい映画が「ストレート・アウタ・コンプトン」です。80年代後半、ウエスト・コーストのコンプトン在住の若者のラップ・グループ、NWAの誕生から大成功するまでを追ったドキュメンタリーです。8月14日に公開されて以来大反響、2週連続全米ナンバーワン!毎日記録を更新中。

Spoiler Alert まだ見ていない人はこの先読まないでください。

O'Shea Jackson Jr
ハイライトがいくつかあって、まずキャスティングが素晴らしい。N.W.A.のメンバーのうち、アイス・キューブを演じているのが実の息子、オシェイ・ジャクソン・ジュニアです。顔や表情が似ているだけでなく、しっかり演技ができているのが凄い。そして、イージーEを演じる役者(ジェイソン・ミッチェル)が、顔はまったく似ていないのにヴァイブが強烈で、最初は違和感があったのに、だんだん惹きこまれ、エイズで死ぬ場面はもうすっかりイージーE本人として感情移入してしまったほど。当初、イージーEの息子、リル・イージーEが父親の若い頃を演じることになっていたそうですが、どうも演技力不足だったらしく、降ろされてしまったそう。ドクター・ドレ役のコーリー・ホーキンスもDJオタクなドレを見事に演じて、マル。

ドレがプロデュースした「カルフォルニア・ラヴ」のレコーディング風景が見もの、2パックがスタジオでヴォーカルを録るシーンでは鳥肌がたちました。そっくりなんです。2パックのスタジオでの生前の映像をはめ込んだのでは、と思ったほどです。実は演じた俳優のマーク・ローズはすでにジョン・シングルトン監督の2パック・ドキュメンタリー映画の主役に抜擢されたのだそう。このシーンを見るだけでも価値がある…….?

冒頭のシーンでいきなり戦車がクラック・ハウスに突っ込み、家を破壊してしまいます。ドラッグ戦争のさなか、実際にロスアンジェルスの住宅地で起きていた取り締まり手段なのですが、あまりの残虐なやり方に警察に対しての嫌悪を覚えます。別な場面では、N.W.A.のメンバーたちがレコーディングの際、ブレイクをとって外でソーダを飲んだりしている時、パトロール中の警察に遭遇、理由もなしに全員地面に叩き付けられ取り調べられます。コンプトンのブラック・ティーンと警察とのいびつな関係が浮き彫りに……..。アイス・キューブが「ファ**・ザ・ポリス(警察なんか糞くらえ)」とラップしたくなるのもムリないよね、と思わせられます。

1988年にリリースされた、N.W.A.の “F**k Tha Police” はアメリカ社会に大きな衝撃を与えました。地元の警察LAPDから嫌がらせされたり、音楽が暴力的過ぎるとボイコットされたり……。メデイァからは「ギャングスター・ラップ」というレッテルを貼られ、銃を振りかざして暴力を糾弾されます。それに対して、メンバーたちは「オレたちの住む環境が暴力的なだけで、オレたちは自分たちの経験をただラップしているだけ。」と反駁します。事態はさらにエスカレートしてFBIから抗議の手紙がきます。白人マネージャーはオロオロするばかり……….。アメリカ政府が介入してきたら一大事だ、とメンバー達に自粛を勧めます。ゲトーのギャングあがりのイージーEはビビるどころか、不気味な笑いを浮かべ、「FBI………? ふふん、面白いじゃないか。いっちょ、これを公表して大々的に宣伝しよう。」と提案、思惑通り、N.W.A.の名前がアメリカだけでなく世界中に轟くことになります。折しも、ロドニー・キングが複数の警官に暴行されたビデオ・テープがニュースで世界中に流れ、ゲトーの黒人と警官たちとの関係は悪化の一途をたどり、とうとう暴動へ発展、50年前のワッツ暴動を彷彿とさせます。黒人たちへの偏見がなくなるどころか、現在でも警察による暴力事件が起こり続けていることを考えると、25年以上経った今でもN.W.A.のメッセージは古さを感じさせません。タイミングの良さも手伝って映画は大ヒット中。

NWA
「Straight Outta Compton」は社会批判だけでなく、ヒップホップの重要な要素、「パーティー」のシーンもふんだんに登場します。グルーピーの女性たちがただのセックスの道具にしか描かれていないのが気になりますが、当時(今でも?)ゲトーの女性たちは、「男は金」としてしか見ず、成功した男に群がるのですからお互い様なのかも知れません。

Straight Outta Compton - Cast監督はアイス・キューブの初期のPVを手掛けたF.ギャリ―・グレイで、キューブとはバカ受けしたコメディ映画「フライデー」でも一緒に仕事をした仲間です。カルフォルニア出身で、コンプトンの事情にも通じたベテラン監督なので撮影もスムーズにいったようです。物語はイージーE、アイス・キューブ、ドクター・ドレの3人に焦点を当てています。脇役としてシュグ・ナイト、スヌープ・ドッグなどが登場しますが、どの役者も存在感があって印象に残ります。ほんの2時間あまりで約10年に渡るグループの活動や亀裂、ソロになってからのそれぞれの成功を追うのは至難の業だと思います。ムダなものを削ぎ落とした感はぬぐえませんが、N.W.A.というグループの実態はよく描かれていると思います。

アイス・キューブとドレがN.W.A.の映画を制作していると聞きつけたシュグ・ナイト、黙っているはずがありません。「オレに断りもなしに………。」と怒り狂ったシュグ、チンピラ仲間を連れて撮影現場を襲撃、なんと死傷者まで出してしまいました。そのニュースは、映画にとって格好の宣伝材料になっただけで、シュグはまた刑務所に逆戻り………。

ライヴ映像はすべて出演者たちがパフォーマンスしているそうです。なかなか迫力があってコンサート映画としても楽しめます。私はイースト・コーストの現場でヒップホップを体験したのですが、この映画を通してN.W.A.のリアルなメッセージも十分堪能できました。ヒップホップの歴史を知るうえでも重要な作品だと思います。

伊藤 弥住子

Chris Tucker is Baaack!! クリス・タッカー復帰ツアー

Chris Tucker

Chris Tucker

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Chris Tucker is Baaack!!
クリス・タッカー復帰ツアー

過去の税金を払っていないとして12ミリオン・ドルという膨大な追徴金の支払いを命じられて財政難に窮しているクリス・タッカーの「Guess Who’s Back Tour」がソールド・アウト続出という大盛況を収め、最後のNYアポロ劇場の公演で幕を閉じました。12月の13日と14日の2回公演のうち、運良く14日のチケットを入手、3階一番後ろのステージから最も遠い席でしたが、大好きなクリス・タッカーを生で見ることができたのでさっそくレポートいたします。

前座はロンドン・ブラウンとテリー・ホッジズというふたりのコメディアンがおのおの30分ずつのステージを務めました。特に無名のロンドン・ブラウンがネタ、物真似とも素晴らしくアポロ劇場のオーディエンスを思いきり笑わせてくれました。デンゼル・ワシントンがガソリン・スタンドの従業員だったら…..という想定の物真似や、ジェイZのラップを真似てみせたり、さらにはこの日の主役、クリス・タッカーのハイパーな喋りをそのまま再現してみせたりと高度なスキルでオーディエンスを湧かせました。

待ちに待ったクリス・タッカー、ファンキーなジェームス・ブラウンの「ペイバック」をBGMに華々しくダンスしながらの登場です。最初のトピックはオープニング曲に相応しい「税金問題」。すでに「クリス・タッカー、税金地獄!IRSが12ミリオン徴収通達」とニュースで報じられているので全米ブラック・コミニティーの常識になっています。

Chris Tucker & Jackie Chan

Chris Tucker & Jackie Chan

開口一番、「 IRSはマフィアよりタチが悪い」とタイムリーなジョークでウォーム・アップ。「ラッシュ・アワー」シリーズで大スターの座を築き、続編のパート3では何と25ミリオン・ドルも稼いだというクリス。「お金がいっぱい入ってきて,隣同士の家を2軒もいっぺんに購入しちゃった。オレのお隣りさんがオレ…….なんて、わけわかんなくなっちゃったりして……(笑)。稼いだお金は全部自分のものだと思ったのに……。」と税金問題に発展した経緯をほのめかします。IRSに追われて大ピンチ、仲良しのジャッキー・チェンに相談してはみたものの、「クリス、おまえブロークなのか。ま、アメリカの国自体がブロークだからな。」と取り合ってくれないとか…….。「誰も信じちゃいけない。特にウェズリー・スナイプスから税金のアドバイスなんか聞いちゃだめだよ。‘クリス、お前、まだ国にタックスなんか払ってるのか?オレなんかブレードのヒーローだし、タックスなんか払わないぞ’なんて入れ知恵されて信じようもんなら刑務所行きだからな。」と茶化します。

この背景をよく知らない人のために付け加えておくと、ウェズリー・スナイプスは脱税容疑で有罪となり、懲役3年を言い渡され2010年より現在も服役中なのです。彼の税理士が所得税は海外での所得に対して課せられるものであって国内での収入は対象にならないと主張、それを真に受けたウェズリーが納税を拒絶、その結果裁判沙汰となり敗訴し刑務所に行くハメになりました。そんなことに取り合うなんてバカバカしいと思うかもしれませんが、実際に所得税不払い運動を起こしているAmerican Rights Litigators というが団体が存在しているのです。

Ice Cube & Chris Tucker in Friday

Ice Cube & Chris Tucker in Friday

有名人をカモにする詐欺師まがいの弁護士、会計士、ファイナンス・アドバイザーだらけのハリウッド、ウェズリーのように騙される芸能人は後を絶たないようです。クリスでなくとも猜疑心が強くなるのは当然かも知れません。クリス・タッカーと言えば、ヒップホップ・ファンからはアイス・キューブと共演した映画「フライデー」のキャラクター、いつもマリファナを吸ってぶっ飛んでいる「スモーキー」として知られています。1995年に公開された映画なのですでに17年経過しているのですが、今でも「よ〜、スモーキー!」と声をかけられるそうです。「オレのことスモーキーって呼ぶのはやめてくれ。」とファンのみなさんに訴えます。「あれはただのキャラクター、オレの演技がうますぎただけ。」と必死に嘆願。さらに、「アイス・キューブはラッパーだからな。‘フライデー’に出演した時のギャラなんかクサとCDだったんだぜ。」とジョークを飛ばします。

You Rock My World” PVで共演した仲良しのマイケル・ジャクソンのエピソードも披露。「マイケルのネヴァーランドに招待されて遊びに行ったら、窓の外にキリンが2頭現れてびっくり。マイケルになんでキリンが2頭いるの?と聞いたら、‘2頭じゃなくて3頭いるんだよ。みんなに紹介しようか’だって。マイケルの人徳なのか、彼だったら何をしても許されちゃうんだよね。電話で話していた時にいきなり思いついたのか、オレのこと‘クリスマス’って呼びはじめたことがあったんだ。‘クリスマスって響き、いいよね。ボク好きなだなぁ。これからはクリスマスって呼ぶことにする……。’なんて勝手に決められちゃった。最初は歯がゆかったけど、だんだん慣れてきちゃって……。マイケルのおかげで名前変更、今じゃオレの正式な名前は‘クリスマス・タッカー’だよ……。」とマイケルの思い出話は尽きません。

あっと言う間に2時間経過。チケット代60ドル以上たっぷり笑わせてもらいました。しばらく活動を休止していたクリス・タッカー、大盛況のうちに全米20

箇所を回った復帰ツアーの幕が降りました。今回のツアー収入で税金が払えるといいのですが……..。

(伊藤弥住子)