[Black History Month#4]フォークロア作家、ゾラ・ニール・ハーストン

Black History Month 4
Zora Neale Hurston – Spunk

2月は黒人歴史月間です。

フォークロア作家のゾラ・ニール・ハーストンを紹介したいと思います。ラングストン・ヒューズと共に、ハーレム・ルネッサンスの中心的存在のゾラはとても個性的な女性でした。まず、生い立ちがユニークなのです。フロリダはオーランドの近く、アメリカで初の黒人自治区、イートンヴィルという町でゾラは育ちました。127年も前、1891生まれですが、古さを感じさせないのです。父親は選挙で2回当選し、市長を務めた有力者です。町の役場や工場、パン屋さんなどに勤める人たちも全員黒人という環境で自由を謳歌していたのが、のちに民話を元に黒人たちの日常をテーマにした作品をたくさん世に発表した作家、ゾラ・ニール・ハーストンです。

オフ・ブロードウェイ作品、「スパンク」

彼女の代表作品は、「Their Eyes Are Watching God」と言われています。主人公の女性、ジェイニー・クロフォードが、3人の男との結婚を通して女として成長してゆくという物語です。2005年に映画化され、ハリー・ベリーが主役を演じて話題になりました。

有名な作品ですが、私が一番インパクトを受けたのは、ゾラ・ニール・ハーストンの初期(1927)の短編、「スパンク」でした。今から30年ほど前、NYのダウンタウンのオフ・ブロードウェイ・ショーでこの作品の芝居を見た時、黒人の人たちの世界を始めて垣間見たような大きな衝撃が走りました。ステージに登場する人物全員がキラキラと輝いていて、独特のリズムがあるのです。ゾラの育ったフロリダのイートンビレッジという黒人の村で起きた殺人事件の物語です。

ゾラはフロリダ出身ですが、ワシントンDCのハワード大学で文学を学び、ニューヨークのバーナード・カレッジで人類学を専攻しました。恩師、ドイツ人のドクター・フランツ・ボアスは北極圏のエスキモーと生活を共にし、その生態を研究した現代人類学の基礎を築いた教授でした。彼の、「根本的には民族に優劣はない。科学的に証明できる材料はない。」という持論にゾラは共鳴したようです。「黒人たちの生き生きとした生活に焦点を当てたい、南部の二グロの民話を題材にした小説を書きたい」、と思うようになりました。ドクター・ボアスの薦めで、ゾラはフロリダ、ニューオリンズ、ジャマイカ、ハイチなどを旅して、現地の民話を集め、小説や戯曲を書きました。妻や夫の浮気、といったゴシップや、ブラック・マジックなど南部のローカルなテーマがよく登場します。

「スパンク」は舞台がフロリダの田舎町で、それも黒人たちの訛りをそのままに表現しているので内容がよく聞き取れません。でも、フォークロアな雰囲気が伝わってきて、何となくわかるのです。中心人物はタイトル通り、スパンクというブラザーです。「スパンク」というのは粗野でともすると乱暴な強い男の形容詞なのだそうです。

スパンクは森の材木工場で大型鋸を扱う職人です。つい先日も事故で職人が死んだばかり、とても危険な仕事です。自他ともに認める大男、スパンクは村のジョー・カンティーの妻、リナに惚れ、横取りしてしまいます。

リナはスパンクの腕のぶらさがり、二人は嬉しそうに歩いています。町の住人が目撃、あとからやって来たレナの夫、ジョー・カンティーに、「ジョー、スパンクに勝手なことさせていいのかよ。決着をつけて来いよ。」と促します。

ジョー・カンティーは臆病でしょぼくれた男ですが正直者です。ポケットからナイフを出し、意を決して二人の跡を追います。しばらくして遠くで銃声が…….。

後ろからナイフで襲いかかってきたジョーをスパンクが撃ち殺してしまったのです。裁判にかけられましたが、正当防衛で無罪になります。事件のあとのことは村の住人たちの会話で語られます。スパンクとリナが一緒に住み始める初日の夜、どこからともなく真っ黒な野良猫が家のまわりを徘徊します。「あっちへ行け!」、スパンクは銃を構え撃とうとするのですが、猫が睨みつけるではありませんか。ツワモノのスパンクですが、急に怖くなってしまいました。「きっとジョーの亡霊に違いない…….。」

材木場で鋸を扱っていたスパンク、ベテラン職人のはずなのに、操作を誤り、鋸で自分の体を切断してしまいます。やがてスパンクは息を引き取ります。村の人々は「ジョーが奴の背中を押したに違いない……..。」と囁き合います。

短い劇ですが、ジャズ、ブルースなど音楽満載、スワガーな黒人独特の身のこなし、ダンス、とにかくファンキーなお芝居ですっかりゾラ・ニール・ハーストンに魅せられてしまいました。

伊藤 弥住子

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