ジョーダン・ピール監督映画 “Get Out”、Pディディーも大絶賛!Get Out’s Ending & Message Explained

 

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ホラー映画という枠に収まらない、コメディ・ドゥオKey & Peeleの片割れのジョーダン・ピールが監督した映画「ゲット・アウト」が爆発的にヒットしています。

私たち日本人にとって、非常に分かりにくい人種問題(ここでは黒人と白人の人種問題のこと)を題材にしたホラー/コメディ映画、「ゲット・アウト」が公開(2/24)以来予想外に当たり、予算$4.5ミリオンで制作した映画が、すでに$110ミリオン以上の収益を上げています。特に黒人たちの間で大ウケ、Pディディーも「最高の映画!」と大絶賛。

トランプ大統領が就任し、移民問題が白熱、白人至上主義を掲げる社会の今、これほどタイミングのいい映画はないと思います。

 

主人公はNYブルックリン在住の若い黒人のフォトグラファー、クリス白人のガールフレンド、ローズの両親に初めて会うため、彼女の実家を訪れることに…….。クリスの従兄、ロッドの反対をよそに、バケーションがてら、ローズの両親と週末を過ごすことになりました。郊外の閑静な白人住宅地………立派な構えの邸宅に住む両親はとてもリベラルでフレンドリーな人たちでした。ところが、何だか様子が変なのです。両親主催のガーデン・パーティーに集まった白人たちはとてもナイス…….。実は、ナイスなのは特別な理由が…….。

この先は、ネタばれなので映画を見ていない人は読まないでください。

オープニングは、ホラー映画にありがちな暗闇の街。黒人の若者が郊外の閑静な白人住宅街に迷い込みます。回りには誰もいません。と、一台の車が………。「誰かにつけられてる。めちゃクリーピー(不気味)だぜ。」と携帯で話した直後、黒人は何者かに襲われます。車から降りてきた、中世風ヘルメットを被った男がいきなり頭突きをかまし、意識を失った黒人はトランクに入れられ、車は走り去ります。

物語の前半はペースも遅く、もったいつけているかのように思われますが、すべての出来事は結末と繋がっていたことが後で判明します。

 

若いけれどそこそこ認められているフォトグラファー、クリス・ワシントンは、知り合ってまだ数か月の白人の彼女、ローズにぞっこんです。彼にとって初めての白人のガールフレンドです。ローズの誘いで彼女の実家に遊びに行くことになりました。ケネディ空港のセキュリティTSAで働く従兄のロッドに、留守中愛犬の面倒を見るよう依頼します。しぶしぶ承諾したロッド、「白人はクレイジーだから気を付けろ。」とクリスに警告します。出発当日、「きみの両親、オレが黒人って知ってるのか。」とクリスが聞くと、「え、そんなこと関係あるの。」とはぐらかすローズになぜか胸騒ぎをおぼえます。

郊外をドライヴするクリスとローズ。不意に飛び出してきた鹿をはねてしまいます。車を止め、クリスは道の脇に横たわっている鹿が生きているかどうか近づいて確かめます。なぜか、ローズは無関心。この時の時間が異様に長く感じられます。屍を放置しておくのも気が引けるので、警察に通報します。白人警官がやってくるあたり、すでにのこのあたりは白人地域だというヒントなのでしょう。若い警察官はクリスに向かって「運転免許証を見せてください。」と要求します。憤慨したローズ、「運転していたのは私よ。彼の免許証を見せる必要なんかないわ。」と抗議します。“黒人”であることに慣れているクリスは素直に免許証を取り出し警官に渡そうとします。それを制して、ローズは彼の免許証を取り上げます。このシーンは、リベラルな白人が人種差別批判をしているように取れますが、自分たちの犯罪を隠すという意図だったのかも知れません。クリスとローズが一緒にいたということが警察にバレるとまずい理由があるからです……。

 

ローズの両親、ディーン&ミッシー・アーミテージは裕福な白人でした。父親は脳外科医で、母親は精神科医で催眠療法専門家です。二人とも、黒人のクリスにはとてもナイスです。

父親ディーンは、「もし、3期目が許されるなら、もちろんオバマ大統領に投票したと思う。」とリベラルを強調。あまりに黒人を意識した態度がかえって気になります。

ディーンによると、ローズの祖父は陸上の選手で、黒人選手、ジェシー・オウエンスに負けたため、1936年のベルリン・オリンピックに参加できなかったことを悔やんでいたといいます。

(ジェシー・オウエンスは実在の人で、ベルリン・オリンピックで金メダルを4つ獲得したアフリカン・アメリカンの選手です。当時、ナチスのヒトラーがドイツを支配し、「優生学」を信奉し、「アーリア人種至上主義」を訴えていました。ヒトラーのプロパガンダを証明する道具だった、1936年のベルリン・オリンピックで、「アーリア人種よりアフリカン・アメリカンのほうが優越だ」、ということを世界に知らしめる結果になってしまったことは皮肉としか言いようがありません。)

 

アーミテージ家には黒人の使用人が二人います。ディーンによると、年老いた両親の世話をするために雇った使用人で、ふたりの死後、解雇するのはかわいそうだから今でも使っている、と説明します。庭仕事や肉体労働をするウォルターも、女中のジョージ―ナも、異常によそよそしく、古臭い言葉使い……、現代の黒人らしからぬ言動に戸惑うクリス。

ローズの弟ジェレミーもやってきます。その晩のディナーの席で、酔っ払ったジェレミーがクリスにからみ、「黒人は強いって本当か。ひと勝負してみるか。」と煽ります。何気ない会話のように見えますが、この家族が、ヒトラーが信奉していた優生学にはまっていることがわかってきます。

 

眠れず、たばこを吸おうと夜中に外に出たクリスが見たものは……..。暗闇の中、使用人のウォルターが全速力で走ってきたのです。驚くクリス!一体、こんな夜中に何をしているのだろう…………。ふと、家のほうを見上げると、灯りのついた窓に写ったジョージ―ナの姿が…….。なんて不気味な家なんだろう。部屋に戻ろうとすると、母親のミッシーに呼び止められます。「ちょっとこっちへ来てお話ししましょう。」断れずにミッシーの前に座らせられるクリス。ゆっくりティーカップのお茶をスプーンでかき回すミッシー…….。知らぬ間に催眠術にかけられるクリス。思い出したくなかった過去へと引き戻されます。体が沈み、別世界へと魂が彷徨います。

 

翌朝、起きて一体何があったのか思い出そうとしても思い出せません。念のため、ロッドに電話しておこう。「どうも、昨晩、彼女のお母さんに催眠術をかけられたみたいだ。」と報告すると、「それみろ。嫌な予感がしていたんだ。最近、黒人が誘拐されて行方不明になっている事件が多いし、白人の間では黒人を性の奴隷にしているらしいぜ。そいつらもそうじゃないのか。早く逃げたほうがいいぞ。」とロッドに忠告されます。

 

この日は、ローズの両親が主催したガーデン・パーティーに近所の友人たちが集まります。裕福な白人たちに交じって一人だけ若い黒人がいました。親近感を抱いて自己紹介をするクリス、その黒人は、ローガンと名乗り、年が倍以上も離れた中年白人女性を伴っています。なんだか違和感があるなぁ……。拳で挨拶をするクリスに握手で応えるローガン……。「あ、何だか見たことある顔だ…..。」、クリスは何気なく携帯で写真を撮ります。そのフラッシュが原因でローガンがパニックに陥り、「ゲット・アウト!(出てけ)」と叫びます。彼は癲癇持ちだから、などと言いわけし、ミッシーがローガンを別室へ連れて行きます。

 

居心地が悪くなったクリスは、ローズを伴ってって散歩に行きます。(といっても家の敷地内です。)その間、ガーデン・パーティー会場では、ビンゴを装ったオークションが開催されていたのです。落札されようとしていたのはなんとクリス本人でした。そうです、これは奴隷市場なのです。入札したのは、盲目のアート・ディーラーのジム・ハドソンでした。

 

パーティーのあと、部屋で充電していたはずの携帯のコンセントがはずされていたのを発見、驚愕するクリス。きっと女中のジョージ―ナに違いない。黒人のオレが白人のローズと付き合っていることを妬んでいるのだろうか……..。危機を感じローズに早くここを出て行こうと促します。クリスは、携帯が立ち上がるとすぐにロッドへローガンの写真を転送します。しばらくして、ロッドからの電話で「やっぱりそうだ。地元で行方不明になっているアンドレ・ヘイワ―スに間違いない。」と告げられます。映画の冒頭で襲われたのはアンドレ・ヘイワ―スだったことが解き明かされます。それがなぜローガンに……?

なぜか開いていたクローゼットのドア。中を見ると写真が何枚も出てきました。どれもローズとボーイフレンドらしき黒人の男が写っています。ローズが、初めて付き合った黒人がオレだって言ったのは嘘だったのか…..。ウォルター、そしてジョージ―ナとの2ショットも発見!背筋に戦慄がはしります。一刻も早く逃げないと(ゲット・アウト)。

ローズに向かって、「行くぞ。キーはどこだ?」と詰め寄るクリス。「ないわ。車のキーがみつからない。」「どこにいったのかしら、ないのよ…….。」

両親とジェレミーが姿を表し、お芝居はおしまい。ローズの態度が一変します。彼女も秘密誘拐計画の一味だったことが明るみに…….。

 

弟のジェレミーにノックアウトされ、クリスは意識を失います。気が付くと、地下室の椅子に手足を縛られ、目の前にはテレビの映像が流れています。この不気味なファミリー、実はThe Order of The Coagulaというカルト集団だということが判明します。年老いた白人の頭脳を、若くて強い黒人の体に移植し、その人格を存続させるという。今の世の中ではあり得ないことが目の前で起こっている……。

がんじがらめで動けない、テレビの映像と音声の催眠効果で意識が朦朧としてきます。絶体絶命、クリスはこの危機をどうやって脱出するのか……。日ごろより、ナーバスになるとものを引っ掻くくせのあるクリス、革製の椅子を引っ掻いてほじくっていたら、中から綿がでてきました。綿摘みは黒人奴隷の仕事……、クリスはこの綿を耳に詰めて催眠術を逃れます。綿が黒人の窮地を救うという皮肉…….。

隣りの手術室では、脳外科医のディーンが、クリスを入札したジム・ハドソンの頭蓋骨を切って待機中。クリスの体にジムの脳を移植する手術を執り行う準備が完了、息子のジェレミーがクリスを運んでくるのを待っています。車椅子を運んできたジェレミーは、母親の催眠術でクリスが意識を失っているものを思っています。手足のバンドをはずした瞬間、クリスはジェレミーに襲いかかります。不意一をくらって動転したジェレミーをぶちのめします。待ちくたびれて現れたディーンを、クリスが壁にかかっていた鹿の剥製の角を武器に一突きで殺します。次に現れた母、ミッシーをもナイフで刺し殺し、逃げるクリス。

そんなことになっているとは知らず、ローズは自分の部屋でイヤフォンで音楽を聴きながら、ネットで「期待の新人スポーツ選手」を物色中。新しい獲物は誰にしようかな………。真っ白いミルクにフルーツ・ループス……、ジョーダン・ピール監督は何を示唆しているのか……。

クリスは、ジェレミーの白い車に乗り込み、座席にあった中世風のヘルメットをみつけます。そう、あの誘拐犯はジェレミーだったのです。逃走途中、追いかけてきた女中のジョージ―ナを跳ねてしまいます。来る途中に鹿を跳ねてしまったように…….。見殺しにできず、クリスはジョージ―ナを助手席に乗せ逃げようとします。

やがてローズがショット・ガンを持って追いかけてきます。ジョージ―ナをグランマ(お祖母ちゃん)と呼び、使用人のウォルターをグランパ(お爺ちゃん)と呼ぶではありませんか。実は、黒人の体に宿っているのはローズの祖母と祖父だったのです。

お爺ちゃんのウォルターがローズに、「ガンをよこせ。オレがこいつを始末する。」と叫び、ローズからショット・ガンを取ります。ローガンがフラッシュで本性をむき出しにしたことを思い出し、クリスは携帯でフラッシュをかざします。その瞬間、ウォルターが我を失い、孫娘であるはずのローズを撃って、自分も喉を撃ち抜いて自殺してしまいます。ローズに対する怒りで、クリスは瀕死の彼女の首を絞めて息の根を止めてしてしまおうかと思いますが、なぜか思いとどまります。遠くからサイレンが聞こえます。警察……!クリスは両手を上げて「降参」のポーズをします。警察権力の前に、黒人は何の人権も持たない…….。

サイレンの音が近づきます。絶体絶命!ところが、車から出てきたのは、セキュリティTSAのロッドではありませんか!映画館は満場一致で大喝采。

クリスがロッドに尋ねます。「なぜ、オレの居所がわかったんだ。」

ロッドが答えます。「オレは T S Muther f**n Aだぜ。」このオチはジョーダン・ピール監督ならでは。お見事。

 

というわけで、シリアスな映画ですが、コメディの要素もたくさん盛り込んだ面白い内容でした。

伊藤 弥住子

追記(1)現実の事件との関連性

 

冒頭部分が5年前、フロリダの白人高級住宅地で実際に起きた、17歳の黒人高校生、トレィヴォン・マーティン殺害事件を彷彿とさせます。殺される直前、トレィヴォンも女友達と携帯で喋っていました。「変な奴にあとをつけられてる。クリーピー、ホワイト・クラッカーだぜ…….、何だよ….、放せ!」という言葉を最後に残し、約20分後にピストルで撃たれて死亡しました。

追記(2)ヒップホップ・ファンにとっての見どころ

 

ローガン・キング(実はアンドレ・ヘイワ―ス)を演じているLakeith Stanfieldが見ものです。冒頭のシーンでは、喋り方もしぐさもブルックリンのフッドなブラザーそのもの、次のガーデン・パーティーのシーンでは、外見は黒人なのに骨抜きな動作緩慢なおじさん風で、全く別人なのです。同一人物とはちっとも気がつきませんでした。

実はこの人、2015年に大当たりしたN.W.A.ドキュメンタリー映画、「ストレート・アウタ・コンプトン」にスヌープ・ドッグ役で出演していた俳優なんです。顔は似ていないのにスヌープの雰囲気がよく出ていて印象的でした。自称ラッパーですが、スキルのほうはちょっと怪しいようです。

 

Childish Gambino、a.k.a. Donald Glover の曲、“Redbone”が使われています。

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