「12 Years A Slave(12イヤーズ・ア・スレイヴ)〜それでも夜は明ける」オスカー受賞、3/7日本公開!
「12年間の奴隷生活(正式日本タイトルは「それでも夜は明ける」)」という映画が今アメリカで公開中、話題になっています。脚本は、実際に奴隷を体験した黒人、ソロモン・ノーサップの自伝「12 Years A Slave 」に基づいています。
時は1841年、アメリカ北部の自由人だった33歳の黒人、ヴァイオリニストのソロモン・ノーサップは白人に騙されて南部に奴隷として売られてしまいます。
それまで享受していた自由を奪われ、愛する妻と子供たちから引き裂かれ、ムチで叩かれながら12年間ルイジアナのプランテーションで奴隷として働かされます。解放されたのち、ソロモンはその間の記録を綴り、「12 Years A Slave 」を1853年に出版します。もともと奴隷は読み書きを禁じられていて、奴隷の過酷な体験談をまとめた自叙伝は稀だったため、この本はたちまちベスト・セラーになりました。
「12イヤーズ・ア・スレイヴ」を映画化したのは、イギリス 生まれで現在オランダのアムステルダム在住の黒人監督、スティーヴ・マックィーン(アメリカ俳優スティーヴ・マックィーンとは別人)というフィルム・メーカーです。出演しているのは米英の俳優たち、最も有名なのはブラッド・ピットでしょうか。彼の役どころは黒人奴隷制に反対する知的な大工で、主人公のソロモンが自由の身になって故郷に帰れるよう取りはからってあげる「よい白人」サミュエル。
主役のソロモン・ノーサップ役はイギリス俳優のチュウィテル・イジョフォー(Chiwetel Ejiofor)、2005年のイギリス映画、「キンキー・ブーツ」でトランスヴェスタイトを演じて話題になった演技派アクターです。
ルイジアナの美しい風景と、綿畑で朝から晩まで炎天下で過酷な労働を強いられる奴隷たちの姿がとても対照的です。豪邸でパーティーを繰り広げる裕福な南部の白人たち、ニガーと蔑まされ人間扱いをされない黒人奴隷たち、 天国と地獄のコントラストが印象的です。特殊なカメラを導入し、映像にもこだわりが感じられます。黒人監督だからできたのだと思いますが、白人マスターの奥さんをとても冷酷に描いています。特に自分の夫が可愛がっている若い女の奴隷、パッツィーを失神するまでムチで打ち続けるシーンはあまりに凄絶で目を覆いたくなります。プランテーションのマスターの奥さんたちは「サザン・ベル(南部小町)」と呼ばれる敬虔なクリスチャンの美女たち、慈悲深いはずなのに、なぜか黒人たちを虐待することには抵抗を感じていなかったようです。そんな彼女たちの残虐さがよく表現されています。この映画が他の奴隷を扱った作品とちがう点は、主人公が最後に解放されて家族のもとに帰って幸せに暮らす、というハッピー・エンディングが用意されていることです。ルイジアナの実在のプランテーションで撮影し、原作に忠実に描かれています。
このような誠実な作品をなぜアメリカが作れないのでしょうか。奴隷が主人公の映画、「Django Unchained」を‘祖先に対する侮辱だ!’と批判したスパイク、リー監督、文句があるならこういう作品を作って反論して欲しかった…………。
原作は書店、アマゾン.コムなどで入手できます。
Twelve Years A Slave by Solomon Northup (Dover Publications)
伊藤弥住子