Motown 25 Yesterday, Today, Forever
第一幕は1983年、ロスアンジェルスのパサデナ・シビック・オーディトリアムで開かれた「モータウン25周年記念イベント」。まだ現役のテンプテーションズ、フォー・トップスのショーが開催されています。 各グループのヒット曲のメドレーが圧巻です。”Standing On The Top,” ”She Used To Be My Girl,”など各グループの持ち歌のほか、”Dancing In The Street”などモータウン・カタログの中でもアップテンポ曲にダンサーたちを交え、いかにもブロードウェー・ショー的なきらびやかなダンス・シーンが繰り広げられます。初期のモータウン在籍アーティストはみんな歌だけでなく踊りも本格的にレッスンを受けていたのでパフォーマンスは完璧でした。さすがにミュージカル化されているこのショーはドキュメンタリーではないのでそのへんは期待はずれ、ダンスの場面はあまり多くないほうがよいのでは……、というのが私の正直な感想です。
フラッシュ・バックして舞台は1938年のデトロイト、ゴーディー家のリビング・ルームに移ります。ラジオから初の黒人野球選手、ジョー・ルイスの活躍が伝わります。9歳のベリー少年は黒人でもがんばれば何でもできる、と大興奮、その感動が将来のベリー・ゴーディーの基礎となることをほのめかします。
黒人社長ベリー・ゴーディー(BG)の誕生
当時のデトロイトには自動車産業しかありませんでした。1957年、若きベリー・ゴーディーは他のひとたち同様、フォード自動車工場で働いていました。音楽制作にのめりこんでいたベリーはいつか有名な音楽ライター/プロデューサーになりたいと曲作りに励みます。すでに地元のスターだったジャッキー・ウィルソンのために作った曲、「Reet Petite」が採用されたことをきっかけに音楽業界に入ることを決意。1959年、よき理解者の姉、グウェンをはじめとするゴーディー家の家族全員のサポートを受け、新しいレコード会社を設立します。自動車の街、デトロイトのニックネーム、モーター・タウンをもじって「モータウン」と名付けます。このあたり、やはりビジョンがあったのでしょう。オリジナル・アイディアの溢れる人、それがベリー・ゴーディーなのだと思います。最初にリクルートしたのはストリート・コーナーで歌っていたスモーキー・ロビンソンです。50年代はドゥワップが主流で、4、5人でグループを作ってハモっている黒人たちがたくさんいました。スモーキーも例に洩れず、クローディアという女性をふくむハーモニー・グループ、ミラクルズを結成してデビューのチャンスを掴もうと必死でした。”Shop Around,” “Got a Job” など、ストーリーは全てモータウンのヒット曲で綴られていきます。当時の社会背景などを反映しながら早いテンポで展開してゆきます。
モータウンの成功はそのマーケティング戦略とタレント養成プログラムにあるといわれています。新人タレントは歌や踊りのレッスンだけでなく、服の着こなし、身のこなし方、インタビューの答え方など、ショー・ビジネスのマナーをとことん叩き込まれます。そのシーンは残念ながらありませんが、毎週月曜日の朝行われていたリリース選曲審査会議、「マンデー・ミーティング」を再現しています。これは、多数決で、リリース曲を選ぶというものです。参加者は社長のベリー、タレント発掘及びソング・ライターのスモーキー・ロビンソン、ライター・チームのホランド・ドジャー・ホランド、ミッキー・スチーヴンソン、ノーマン・ウィトフィールド、プロモーション担当のスザンヌ・デ・パッシ、ハーヴァード出身の白人販促担当など。テレビが普及する前のアメリカ、全米のラジオ局に新譜を配ってオン・エアしてもらうというのがプロモの王道だった時代です。ブラック・ミュージックというのを全面にださず、「サウンド・オブ・ヤング・アメリカ」というコンセプトを打ち出し宣伝活動を展開しました。賢いやり方です。モータウンのマーケティングを操っていたのは全員ハーヴァード大学出の白人エリートだったというのを聞いたことがあります。なるほど…….。
モータウンのスタジオ、「ヒッツヴィル」ではスタッフ・ライターがいつも音楽制作をしていました。スモーキー・ロビンソンをはじめ、、ミュージシャンのジェームス・ジャミソン、ベニー・ベンジャミン、振り付け師のコリー・アトキンス等がつねにスタジオで作業していたそうです。マーヴィン・ゲイもドラマーとしてマーヴァレッツのセッションに参加するなど、アーティストたちはファミリー的なつき合いをしていたようです。そんな昔のモータウンのほのぼのした一面が伝わってきます。ステージには60年代に活躍したモータウン・アーティストたちが次々と登場してヒット曲を披露していきます。衣装もキラキラと豪華です。たぶん、実際のアーティストたちが着ていたコスチュームより派手め、ハリウッド的な演出が伺えます。
ベリーとダイアナ、シュープリームの終焉
物語の中心はモータウン社長のベリー・ゴーディー・ジュニアとシュープリームスのメンバー、ダイアナ・ロスとの恋愛です。本人たちは隠していたようですが、所属アーティスト、従業員たち、誰もが知っていました。ダイアナばかり可愛がったことで、ほかのメンバー、メアリー・ウィルソン、フローレンス・バラッドとの関係に亀裂が入り、やる気をなくしたフローレンスはリハーサルに遅刻してきたり、ずる休みをするようになり、やがてグループをクビになります。かわりにシンディー・バードソングが加入しますが、69年にとうとうシュープリームは解散することになります。それにしても、”Come See About Me,” “Love Child,” ”Stop in the Name of Love,” “Where Did Our Love Go” などシュープリームスのヒット曲が多いのにはあらためて驚かされます。
60年代のスターたちは全米をツアーし、一日に2〜3回のショーをやるのは当たり前でした。なかでも「モータウン・レビュー」というツアーは大評判でした。売れっ子のスモーキー・ロビンソン、メアリー・ウェルズ、スティーヴィー・ワンダー、テンプテーションズ、フォー・トップス、コントゥアーズ、グラディス・ナイト&ザ・ピップスなどパフォーマンスを再現、とても充実しています。シュープリームスがデビュー当時、全く売れなかったというエピソードも紹介されます。
PART 3
ダイアナ・ロス役ヴァリシア・ルケイ熱演
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