ニューヨークの中でも生き生きとした豊かなカルチャーを誇るのがここ、ハーレムです。私もあちこちの街に行きましたが、ハーレムほど住人が自分たちの‘フッド’に惚れ込んでいるところは他に知りません。もともと、デューク・エリントンやチャーリー・パーカーといったジャズやスィングなど音楽の都として知られていましたが、現在はジャズの影が薄れ、R&Bやヒップホップ・カルチャーが幅を利かせています。
私たち音楽ファンにとってハーレムの象徴なのがアポロ劇場です。1934年にオープンして以来、改装工事の時期を除いて地元民の娯楽の場として今でも親しまれています。毎週(水)のアマチュア・ナイトはソールド・アウトが続出するほどの人気です。
そのハーレムも、全盛期に比べるとだいぶ様変わりをしてきました。ここ10年の間に黒人が9000人減り、白人が9000人増えたそうです。まだまだアフリカン・アメリカンの文化は根強く残ってはいますが、最近は様々な人種が仲間にはいり、新しいビジネス、ファッション、音楽、レストランなどが生まれ、20年代繁栄した「ハーレム・ルネッサンス」を彷彿とさせます。
その顕著な例が家賃です。地元不動産屋さんの情報によると、ワンベッド・ルームのアパートで1、500ドル(今は超円高ですが地元感覚としては¥130、000くらい)、2ベッド・ルームだと2、000ドル、(¥180,000くらい)もするのだそうです。20年くらい前はその5分の1くらいでした。
Harlem Renaissance
ハーレム・ルネッサンス
第一次世界大戦後の好景気で、大都会のニューヨークにも多くの移民がやってきました。奴隷解放後の南部の黒人たちもシカゴやニューヨークによりよい職を求めて移住し始めました。 ミュージシャン、ダンサー、アクター、エンターティナー、ライター、ポエット、あらゆる才能が溢れ、1920年代、「ハーレム」は黒人知識階層のパラダイスとして花開いたのです。その時代は 「ハーレム・ルネッサンス」として大きなムーヴメントが繰り広げられていました。黒人たちが結束して文化を形成したのはあとにも先にもこの時代だけだったのではないでしょうか。
Langston Hughes & Richard Wright
「ランストン・ヒューズとリチャード・ライト」
ハーレム・ルネッサンス時代、音楽やダンスなどのほか黒人文学が飛躍的な発展を遂げました。才能のある作家たちがこぞってハーレムに居を構え、同人誌を発行するなど、意欲的な詩集、小説などを次々と発表しました。私が好きなのはランストン・ヒューズとリチャード・ライトです。ふたりとも人種問題を軸にした作品で注目されましたがそのスタイルはそれぞれ違います。
The Best Of Simple by Langston Hughes
ハーレム・ルネッサンスの父と言われるランストン・ヒューズはポエトリーや短編集、小説などのほか俳句に取り組むなど日本文化にも傾倒していました。若い頃に船の乗組員(主に厨房での食事係兼雑用係だったらしい)としてヨーロッパ、ウエスト・インディーズ、アフリカなどに行くチャンスに恵まれ、広い視点で描いた作品が多いことも彼がハーレム・ルネッサンスのリーダー的存在になれた要因ではないかと私は思っています。
シカゴの新聞、「シカゴ・ディフェンダー」に掲載されていたコラムをまとめたものがこのシンプル・シリーズです。「シンプル・スピークス・ヒズ・マインド(Simple Speaks His Mind)」を1950年に出版し、評判がよかったのでその後、1953年には「シンプル、妻をめとる(Simple Takes a Wife)」、さらに1957年に「シンプル、人権を主張(Simple Stakes a Claim)」を刊行、そのベスト版として1961年に出したのが、この「ザ・ベスト・オブ・シンプル」というわけです。
主人公はハーレムに住むシンプルことジェッシーBセンプルで、舞台は7thアヴェニューのバー、「パディーズ」です。飲み屋で出会った大卒でインテリなボイドを相手に「ぼやき」を綴った作品がシンプル・シリーズに発展しました。ゴールド・ディガーでいつも男問題の絶えないいとこのミニー、敬虔なクリスチャンでやがて奥さんとなるジョイスといったどこにでもいそうなキャラクターが登場します。すべてフィクションですが、当時(1940年代)のハーレムの情景が浮かび上がってきます。 昔のハーレムではほとんどの人たちが週決めの間借り(Roomer)として、日本でいう下宿生活をしていたことを知りました。風呂、トイレは共同、タオルを借りるにはお金を払わないといけなかったようです。
シンプルは教育のない、単純で貧しい、めっぽう女に弱い、どこにでもいるブルーカラーの庶民というキャラです。「男は辛いよ」の寅さん、といったところでしょうか。ヒューズは、‘教養のない’はずのシンプルに市民権運動、人種問題などホンネを語らせます。
「白人にとってはただの不景気かもしれないけど、もともと何も持たないおれたち黒人にとっては大恐慌さ。」
「白人たちはアフリカからおれたちをさらってきて、奴隷にして、それから解放して、リンチはするし、大恐慌の時は飢えに苦しませ、戦争中はジム・クロウの法律でしばりあげたくせに、こんどはおれたちのことが怖いなんて勝手なことを言う。おれたちのほうこそ白人を怖がる理由がよっぽど多いんだから……。こうして自分たちの居場所、ハーレムがあって本当によかったと思うよ。」
ハーレム見たさにコロンビア大学に入ることを決めたという著者のランストン・ヒューズ。カラード・ピープルが愛したハーレムの世界を堪能するのにぴったりな一冊だと思います。
Native Son by Richard Wright – 1936
「ネィティヴ・サン(アメリカの息子)」リチャード・ライト
リチャード・ライトの代表作は1930年代のシカゴを舞台にした問題小説、「ネイティヴ・サン」と言われています。最初に読んだ時もインパクトがありましたが、最近また読んでみてストーリーの展開も面白いしドキドキ、ハラハラさせてくれる読み応えのある本だと思いました。 主人公のビガー・トーマスは時代こそ違いますがハーレムやブルックリンのゲトーに住む若い黒人たちと何ら変らないのかも知れません。
りぃぃぃぃぃ〜ん!という目覚まし時計の爆音でストーリーが始まります。ビガー・トーマス、母親、弟のバディー、妹のヴェラの4人家族が暮らすたった一部屋だけの狭いアパートの朝、おのおの身支度をしています。突然母親の悲鳴が……..。朝から大きなネズミが出現、兄のビガーと弟のバディが鉄製のフライパンでそのネズミを殴り殺します………。 当時シカゴデ黒人たちが住むことを許させた地域は劣悪な環境のゲトー、「サウスサイド」だけでした。
ビガー・トーマスは20歳ですがろくな仕事に就けず悪い仲間とたむろしています。見かねた母親が知り合いのつてで、ビガーに白人のお金持ち家庭のお抱え運転手の仕事を斡旋してもらいます。なんでもそのミスター・ドルトンはニグロに好意的な「良い白人」で、実験的にニグロの若者に雇用の機会を与えようというのです。初日、ビガーはボスの大学生の娘を車に乗せて大学まで送っていくよう言いつかります。裕福な白人家庭の一人娘のメアリーは自由奔放に振る舞います。彼女には共産主義かぶれの恋人がいて、ニグロにも理解を示します。リベラルなメアリーの大胆な行動にビガーはパニックに陥り、あやまって彼女を殺してしまいます。黒人には人権はありません。いかなる理由でも黒人が白人を殺すことは死刑を意味していた時代です。ビガーは大変なことをしてしまったという意識はあるものの、罪を犯してしまったという反省の気持ちはありません。証拠隠滅のため、彼女の遺体を燃やしてしまいます。自分に嫌疑がかかることを怖れて黒人のガールフレンド、ベッシーを道連れに逃亡を企てます。怖じ気づいているベッシーが妨げになると考え、彼女をもレンガで殴り殺してしまいます。もう後戻りはできない……….。
あらすじだけ聞くと、無慈悲で残酷な印象を与えますが、そこがストーリー・テラー、巨匠のリチャード・ライトのスキルの見せどころ。黒人は犯罪を避けて通ることができないのだろうか………。ビガー・トーマスを黒人差別社会の犠牲者として描こうとしたライトの意図が読み取れます。
生々しい暴力シーン、黒人差別の現実、共産主義ユダヤ人弁護士の無罪求刑の試み………。ビガー・トーマスは「環境の産物」なのだろうか……..。 発表された当時(1940)「ネィティヴ・サン」はアメリカ社会に大きな波紋を投げかけました。「アメリカで黒人であることは一体どういうことなのか」という命題に真っ向から取り組んだ意欲作として絶賛されました。
黒人が大統領にまでなったアメリカですが、あれから70年経った今でも人種問題はまだまだ根深く社会にはびこっています。この本を読んだ時、ラッパー、ナズの曲、「Life‘s A Bitch」のフック、 Life’s a bitch and then you die; that’s why we get high; cause you never know when you’re gonna goが頭に浮かびました。明日はどうなるかわからない…….、だからハイになる……..。刹那的にしか生きられない若者たち………。
「ネィティヴ・サン」はブラック・ピープルを理解するうえでとても助けになる本だと思います。
(伊藤弥住子)
Harlem on the Rise
Harlem is one of the richest, most culturally vibrant neighborhoods in New York City. Jazz, Swing, Rap, and Hip-hop all can trace roots back to this historic neighborhood. I myself don’t know any other “hood” people call home with so much affection and pride.
Today, Harlem is not only a world-famous landmark for some of the greatest contributors to American and African American culture—it’s a neighborhood on the rise, with new families, businesses, and cultural. This once downtrodden occasionally maligned “hood” is experiencing a rate of economic growth and development not seen since the Harlem Renaissance back in the 1920s and 30s—and the tide shows no signs of slowing.
Rentals in the area, depending on location and type of building,
generally run about $1,500 per month for a one-bedroom apartment, with 2-bedroom apartments starting at around $2,000 per month.
Various hotspots around the neighborhood offer residents and visitors everything from fine dining to dancing to local talent showcases.
The Lennox Lounge has been restored to its former 1940’s glory and there are so many restaurants to choose from.
Opened on 125th Street in 1934, the legendary Apollo Theater is still a strong draw, offering its wildly popular Amateur Night on Wednesdays.
While Harlem has long been a stronghold of African American culture, the neighborhood is home to a surprisingly diverse group of residents. There are “people of all creeds, races and backgrounds moving to the area,” and it still retains the flavor that made it famous.
Langston Hughes and Richard Wright
The Best of Simple by Langston Hughes
Langston Hughes’s stories about Jesse B. Semple–first composed for a weekly column in the Chicago Defender and then collected in Simple Speaks His Mind, Simple Takes a Wife, and Simple Stakes a Claim–have been read and loved by hundreds of thousands of readers. In The Best of Simple, the author picked his favorites from these earlier volumes, stories that not only have proved popular but are now part of a great and growing literary tradition.
Simple might be a low class working African-American man of little education but with a lot of common wisdom. He attends the same bar and has discussions with Boyd, an educated college graduate regarding social and racial issues. Somewhat dated now but still enjoyable.
“Everything is always worse for colored than for white, because we have less to begin with, so if we lose that little bit, where are we at?” asked Simple. “That is why a recession for white folks is a depression for us .”
“The white race drug me over here from Africa, slaved me, freed me, lynched me, starved me during the depression, Jim Crowed me during the war – then they come talking about they is scared of me? Which is why I am glad I have got one spot to call my own where I hold sway – Harlem. Harlem, where I can thumb my nose at the world!”
The great dialogue!
Hughes himself wrote: “…these tales are about a great many people–although they are stories about no specific persons as such.
Native Son by Richard Wright
Native Son tells the story of this young black man caught in a downward spiral after he kills a young white woman in a brief moment of panic. Set in Chicago in the 1930s, Richard Wright’s novel is just as powerful today as when it was written — in its reflection of poverty and hopelessness, and what it means to be black in America. 20 year-old Bigger Thomas is doomed, trapped in a downward spiral that will lead to arrest, prison, or death, driven by despair, frustration, poverty, and incomprehension.
When he gets the job of chauffeur to some ’emancipated’ capitalists, his antagonism breaks out. He kills, first by accident. Fear forces him to shift the blame. Another death is then necessary; he is caught and sentenced to death.
Wright’s genius was that, in preventing us from feeling pity for Bigger, he forced us to confront the hopelessness, misery, and injustice of the society that gave birth to him.
(text by Yasuko Ito)
今回のランストン ヒューズとリチャードライトの記事面白かったです。私も本を読んでみます